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旭川地方裁判所 昭和52年(ワ)319号 判決

原告 谷脇栄子 外二名

被告 旭瑛運輸株式会社

主文

一  被告は、原告谷脇栄子に対し、金一三九万四、八四〇円、原告谷脇勝志、同谷脇美香に対し、各金三二九万一、八四〇円及び右各金員に対する昭和五二年一〇月二六日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、右一の項に限り、仮に執行することができる。

事  実 〈省略〉

理由

一  本件事故の発生

訴外孝志が、昭和五二年一月、一般区域貨物自動車運送事業(道路運送法第三条第二項第五号参照)を営む被告との間で労働契約を締結し、以来、貨物自動車の運転手として木材の運搬業務に従事していたこと、訴外孝志が、同年六月一五日午前九時三五分ころ、本件貯木場において、本件セミトレーラに積載されたラワン原木の荷崩れ防止のため、本件セミトレーラの左側面で、ワイヤロープを積荷に回し、ガツチヤと称する結束用器具を操作してする結束作業(ガツチヤ掛け)に従事していたところ、本件セミトレーラの荷台両側に設置されている支柱(ステツキ)の先端より高く積込まれていたラワン原木のうちの一本(直径約三七センチメートル、長さ約四メートル、以下「本件原木」ともいう。)が崩れ落ち、訴外孝志がその下敷となり、第三、第四頸椎骨折及び内臓破裂のため即死したことは、当事者間に争いがない。

そこで、本件原木の崩落の原因について検討するのに、右の争いない事実に、成立に争いのない甲第一号証、第三号証の二、五ないし七、第五号証の一ないし五、証人荒力、同橋場広和、同大久保松夫の各証言を総合すると、(一) 訴外孝志は、本件事故発生当日の午前八時ころ、本件セミトレーラが空車の本件貨物自動車を運転して本件貯木場に到着し、同所の所定区画(ロツト)に山積みしてあるラワン原木の排の付近に本件貨物自動車を停車させたこと、(二) 本件セミトレーラは、前車軸を有しない無蓋の被牽引自動車に属し(道路運送車両法施行規則第三五条の三第一四の二号参照)、その先端部が牽引自動車に載せられ、荷台は、全長一一・八八メートル、幅二・四五メートル、先端部の高さ三・三〇メートル、最大積載量一四・五トンであつて、荷台の両側端には、積荷の転落防止のため、長さ一・五五メートルの鉄製支柱(地上からの高さ二・九〇メートル)が二メートル前後の間隔で各六本立てられていたこと、(三) 同日午前九時ころ、積込作業が開始され、訴外岩倉運輸の検収員訴外金野義雄(以下「訴外金野」という。)が右ラワン原木の選別及び確認に当たり、訴外道栄荷役の重機運転手訴外荒がペイローダと称するシヨベルローダ(以下「本件ローダ」という。)を運転し、一本の重量一五〇ないし六〇〇キログラムのラワン原木を本件ローダのフオーク(鉄製の爪状のもの)に採り、これを本件セミトレーラの荷台に運ぶ作業に当たつたこと、(四) 一方、訴外孝志は、右荷台上に待機し、訴外荒に合図して同訴外人をして右フオークを上下に操作させたり、本件ローダを前後させたりして、支柱をかわしつつ、原木を積んだ右フオークを荷台上に位置させたうえ、キリンと称する鳶口を用いて、フオークの原木を荷台上に転がして卸し、原木と原木の谷間(いわゆる目)に次の原木がくるようにして適宜荷台上に整とんし(いわゆる目落し積み)、三排に分けて荷台の前方から後方へ順次積込作業を進めたこと(以下、運転席に近い方から順に「一排目」、「二排目」、「三排目」という。)、(五) 本件事故の直前において、一排目には一八本、二排目には一四本、三排目には九本の各ラワン原本が積込まれ、一排目及び二排目の積荷は支柱の先端を超え、その頂上部は、垂直距離で、支柱先端から五〇センチメートル前後あつたこと、(六) そして、訴外荒が本件ローダを運転し、三排目に積込むべき残余の原木三本を採るべく本件セミトレーラ付近を離れている間に、訴外孝志は、荷崩れ防止のため、一排目の中央付近、荷台先端から約二メートルの箇所で、本件セミトレーラの荷台右側からワイヤロープを掛け、積材と直角方向になるよう荷台左側に回したうえ、左側荷台の端に乗り、積荷につかまるようにしてガツチヤ掛けをしていたこと、(七) ところが、同日午前九時三五分ころ、目に十分入つていなかつた頂上部の原木が、ワイヤロープの締まる力で訴外孝志寄りに移動し、その反動で、同様に十分固定されていない状態にあつた本件原木(重さ約三二〇キログラム)が手前に押出され、支柱先端を乗り超えた結果、訴外孝志は、本件原木を抱きかかえるようにして地面に仰向けに倒れ、前認定のとおり、その下敷となつて即死するに至つたこと、(八) ワイヤロープ及びガツチヤには、特に異常箇所は見当らなかつたこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、本件原木は、本件セミトレーラの支柱先端より高い位置に積込まれ、かつ、訴外孝志側からみてその向う側に隣接の原木とともに、他材の目にしつかり固定されている状態になかつたため、訴外孝志のガツチヤ掛けの際、その力で右の不安定な隣接原木が次々と移動し、本件原木が崩落したものと認めるのが相当である。

二  責任原因

1  一般に、労働契約は、労働者の労務提供義務と使用者の報酬支払義務をその基本的要素とするが、使用者の労働者に対する債務は、右報酬支払義務にとどまらず、労働契約の内容が、使用者において労務給付の場所、設備、機械、器具等を提供し、労働者をこれに配置してその労務給付を実現させるものである場合には、使用者は、信義則上、労働契約に付随する義務として、労働者に対し、労働者の生命及び健康等を危険から保護し、もつて、その安全を保護するよう配慮すべき義務(以下「安全保護義務」という。)を負担するものというべきであり、右安全保護義務の具体的な内容は、当該労働契約の内容、使用者の提供する労務給付の場所等の具体的な状況に基づき、関係取締法規等も参酌して決定すべきものと解するのが相当である。

2  そこで、本件の場合、被告が訴外孝志に対して負担する安全保護義務の具体的な内容について検討する。

(一)  まず、訴外孝志が本件の運搬業務等に従事するに至つた経緯について審案するに、前掲甲第三号証の二、第五号証の一、証人荒力、同橋場広和、同大久保松夫の各証言によれば、訴外旭川第一木材株式会社(以下「訴外第一木材」という。)は、訴外岩倉組から、本件貯木場に所在する本件原木を含むラワン原木を買い受け、苫小牧の本件貯木場から旭川市の訴外第一木材までの右原木運搬業務を訴外北宝運輸に請負わせ、一方、訴外岩倉組は、本件貯木場における荷役作業を訴外岩倉運輸に請負わせ、訴外岩倉運輸は、右業務を訴外道栄荷役に下請させたところ、被告は、本件事故発生の前日である昭和五二年六月一四日、訴外北宝運輸から、運搬目的原木の所在区画を示すロツト番号の指示を受けたうえ、被告の一車両を本件貯木場まで搬送し、右運搬に当たつて欲しい旨の注文を受け、右業務を、トン当たりの確定運賃の約定で請負うこととし、訴外孝志に対し、細部は現地の荷役業者から指図があるはずであるから一台に積んで運搬すべき旨説明して、右ロツト番号を指示し、同訴外人に本件貨物自動車を運転させて本件貯木場へ派遣したものであること、被告は、貨物自動車二九台を保有し、従業員三八名のうちには、貨物自動車運転手二八名のほか、事業用自動車の運行の安全の確保に関する事項を掌理する運行管理者(道路運送法第二五条の二参照)が四名、積込作業の担当者が三名いたが、本件のラワン原木のような輸入材(いわゆる外材)の運搬に当たつては、運搬車両への積込作業自体は別の荷役会社が行うこととなる関係上、運行管理者及び積込作業員は同行せず、運転手一人で車両を運転して目的地へ行くのを常とし、本件事故の当時も同様であつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、訴外孝志の運転する本件貨物自動車のうち、本件セミトレーラは、全長一一・八八メートル、最大積載量一四・五トンの被牽引自動車であつて、荷台は、無蓋で、その両側には鉄製支柱が二メートル前後の間隔で立てられているにすぎず、積荷のラワン原木は、一本の重量が一五〇ないし六〇〇キログラムもあつて、これを苫小牧から旭川までの長距離を運搬する約定であつたことは、前認定のとおりであるから、その積込作業、結束作業ないし運搬業務の過程で、積荷の崩落等によつて作業者に危険を生ずるおそれがあることは、十分考えられるところである。

(二)  次に、訴外孝志の労務給付の内容についてみるに、本件事故当時、本件貯木場においては、訴外道栄荷役の重機運転手訴外荒が本件ローダを運転し、土場の排から本件セミトレーラへの原木積込作業に当たるとともに、本件貨物自動車の運転手である訴外孝志が訴外荒と合図し、両名が連携を保つて右積込作業を進めたものであり、訴外孝志は、積荷の整とん、ワイヤロープによる結束の各作業に当たつていたことは、前一の項の認定のとおりである。このように、一の荷でその重量が一〇〇キログラム以上のものを貨物自動車に積む作業を行うに際しては、事業者は、労働安全衛生規則(昭和五二年一二月労働省令第三二号による改正前のもの。以下同じ。)第四二〇条に従い、当該作業の指揮者を定め、その者に作業の方法、順序の決定、作業の指揮等に当たらせるべきことが要請されているところ、本件事故の当時、荷役業者において、こうした作業指揮者を現場へ派遣し作業の指揮等をさせていたことは、証拠上確認し難いところである。すなわち、前掲甲第三号証の二によれば、本件事故の調査を担当した労働基準監督官は、労働安全衛生規則第四二〇条違反の事実はない旨の災害調査復命書を作成したことが認められるけれども、訴外岩倉運輸の訴外金野は、前一の項の認定のとおり、積込原木の選別及び確認に当たつていたものであつて、積込作業に関与しなかつたことは、前掲甲第五号証の一の記載からうかがわれるし、訴外荒は、その業務内容、前述のような本件作業方法に照らし、作業指揮者であつたものとは断定し難い。

そうすると、本件貯木場において、本件セミトレーラへの機械力による積込作業に当たつた荷役業者の作業体制が右のとおりであつたこと、被告は、前(一)の項の認定のとおり、従業員のうちから運行管理者及び積込作業員を同行させず、貨物自動車運転手の訴外孝志を一人で目的地へ派遣し、本件貨物自動車一台で依頼された積荷を運搬すべき旨指図したものであること、加うるに、貨物自動車の運転手とすれば、道路交通法上の義務として、同法施行令第二二条所定の積載物の重量、大きさ若しくは積載の方法の制限を超えて積載をして車両の運転をしてはならない義務(同法第五七条第一項)並びに貨物の積載を確実に行い、積載物の転落若しくは飛散を防ぐため必要な措置を講ずべき義務(同法第七一条第四号)を負つていることなどに照らすと、前述のとおり、訴外孝志が、訴外荒の積込作業に対し、これと連携を保つてその作業を協同で行つたことは、積荷の整とん及びワイヤーロープによる結束の各作業とともに、同訴外人の被告に対する労務給付の内容に当然含まれていたものといわなければならない。

なお、証人大久保松夫及び同橋場広和は、訴外孝志には、本件貨物自動車の運行について労務給付すべき義務があるに止まり、積込作業をする義務は存しない旨の供述をするけれども、右認定、判断に照らせば、右供述は、到底採用するに由ないものである。

(三)  進んで、被告の安全保護義務の具体的な内容について考察するのに、前一の項の認定及び判断から明らかなとおり、本件事故の原因の一は、崩落した本件原木が本件セミトレーラの支柱先端より五〇センチメートル前後高く積込まれていたことにあつたものとみなければならず、また、前(二)の項の判断のとおり、積込作業自体も訴外孝志の被告に対する労務給付の内容に属したものとすると、被告は、前述のような構造の本件セミトレーラを提供して右労務に就かせる以上、訴外孝志をして、右積載方法を回避させるよう配慮すべき安全保護義務を同訴外人に対し負担していたものといわざるを得ない。およそ、一般自動車運送事業者は、輸送の安全及び荷主の利便の確保のために、法令所定事項の遵守を義務づけられているところ(道路運送法第三〇条)、貨物自動車運送事業者が、道路交通法第五七条第一項の積載物の重量の制限を超える積載(過積載)をすることとなる運送の引受け、過積載による運送計画の作成及び従業員に対する過積載による運送の指示をしてはならない旨を定めた自動車運送事業等運輸規則第四四条の二(昭和五三年七月運輸省令第四〇号により追加されたもの。)の規定の趣旨は、本件事故の当時においても、当然の事理として妥当したものと解される。

そこで、右安全保護義務の具体的内容について更に検討すると、証人橋場広和の証言及び原告栄子本人尋問の結果によれば、訴外孝志は、生前、大型免許及び大型特殊免許を保有し、原告栄子と婚姻した昭和三八年一二月当時、木材運搬の運転手をし、昭和五二年一月被告に入社する以前も、二、三の運送会社で大型トレーラ等による同様の業務に就いてきたことが認められ(他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右認定の事実からすると、訴外孝志は、本件のような積込作業についても、それ相応の知識経験を有していたものと推認されるけれども、他方、前掲甲第五号証の一、原告栄子本人尋問の結果により原告ら主張のとおりの写真であることが認められる甲第四号証の一ないし三(但し、同号証の一及び二の被写体車両がいずれも被告所有のものであることは、当事者間に争いがない。)並びに証人橋場広和、同大久保松夫の各証言を総合すれば、(1)  被告を含む訴外旭川トラツク協会加盟の一般区域貨物自動車運送事業者の間では、需要維持のため、運輸大臣の認可に係るトン当たりの確定額をもつて定められた運賃(道路運送法第八条参照)の七割程度の運賃で荷主から注文をとるため、採算上、過積載にならざるを得ない実情にあり、被告においても、運転手の過積載違反の反則金等を会社で負担するなど過積載を事実上容認ないし放任していたこと、(2)  そこで、訴外旭川トラツク協会では、過積載をなくし、事故防止と適正運賃の実現を図るため、昭和五二年四月一日から、大型トレーラの荷台の支柱を従前の一・八メートルから一・五五メートルに短縮することを申し合わせ、被告は、本件セミトレーラについても右の短縮化を実行したこと、(3)  しかし、それにもかかわらず、本件事故の前後を通じ、被告の従業員である運転手の間では、作業の効率化又は積荷の安定のため、支柱を超えて積載した車両を運転することが稀ではなく、むしろ、被告が積込作業をも担当する内材にあつては、被告の作業指揮者の判断で支柱を超える積載方法をとることも容認し、本件のような外材の場合は、この点について、事実上運転手の判断に委ねられていたこと、(4)  訴外孝志は、被告から本件の業務を命ぜられた際、運搬すべきラワン原木の正確な石数、重量は告げられていなかつたが、本件セミトレーラの荷台支柱を超えることとなる積載をすれば、道路交通法上の過積載となることもあり得べく、また、その場合、積荷の結束方法いかんでは、崩落等のおそれがあることは、十分予知できたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に基づき、前(一)、(二)の項の認定及び判断に従えば、被告は、訴外孝志に対し、本件貨物自動車による運搬を指示するに際しては、指定区間の運搬のみならず、積込量の決定、積載方法その他荷役業者との協同作業及び結束作業など、危険を伴い、かつ、裁量性のある労務を同訴外人に一任する以上、平素の安全教育、就労前の注意喚気などによつて、右作業を適正かつ安全に遂行させ、殊に、荷台支柱の短縮化を図るなどして、支柱先端を超えることとなる過積載を防止するに至つた趣旨、並びに荷役作業員と連携を保つて適正積載を励行すべき旨を周知徹底させるべき安全保護義務を負担していたものといわなければならない。

(四)  更に、本件原木及びその隣接原木が他材の目にしつかりと固定されている状態になかつたことも本件事故の原因の一であることは、前一の項の認定及び判断のとおりであるところ、何故こうした不安定材が一排目に存したのかとの点について、証人荒力は、右各原木は、同証人において本件ローダのフオークで押えつけ、隣接材の目の間に入つて安定状態にあつたところ、訴外孝志が、ロープ掛けの作業の必要上若しくは片荷の修正をするべく、頂上材を鳶口を用いて少し動かし、目をあけたため、不安定になつた旨証言する。そして、前一の項の認定にみるとおり、本件事故が一排目及び二排目の積込を完了し、三排目も残余の原木三本を残す状態で発生したものであること、前掲甲第五号証の三によれば、訴外孝志の使用していた鳶口は、事故の直後、崩落側の一排目の頂上に残置されていたことが認められることなどに照らすと、右証言は措信するに足りるものと認められる。

また、前掲甲第三号証の二、第五号証の一、証人橋場広和の証言によると、本件セミトレーラのような車両で本件のような積荷のガツチヤ掛け作業をする場合には、通常、積荷の頂上部で安全状態を確認したうえですべきものであることが認められる。成立に争いのない甲第六号証中には、このような作業方法は例外的である旨の記載があるが、同号証のその他の記載によれば、右作業方法が例外的となるのは、積載方法が、積載木材の直径の半分以上が支柱に掛るように積まれ、ガツチヤ掛けにより木材が崩落するおそれのない場合であるからであることが認められ、右記載は、本件の場合には妥当せず、前認定を左右するに足りないものと解され、他に反証はない。

そうすると、積込作業の完了前に、訴外荒と十分連絡をとらないで、漫然、安定状態にあつた積材の目を割つてロープ掛けの作業に着手し、かつ、荷台の横側において、ガツチヤ掛け作業をした訴外孝志には、積荷の整とん及び結束作業上の過失があるものといわなければならないが、前(三)の項の認定及び判断に従えば、右作業を従業員に適正かつ安全になさしめ、事故の発生を防止するよう、前同様の方法でその周知徹底を図ることもまた、本来的には、使用者たる被告の被用者に対する責務に属したものというべきである。

3  進んで、被告が右の安全保護義務を履行したか否かについて判断する。

被告を含む訴外旭川トラツク協会加盟の一般区域貨物自動車運送事業者の間では、過積載を可及的に防止するため、本件事故の二か月半前から、大型トレーラの荷台の支柱を短縮することを申し合わせ、被告は、右申し合わせの趣旨に従い、本件セミトレーラの荷台の支柱を従前より二五センチメートル短縮して一・五五メートルにしたことは、前2、(三)の項に認定したとおりであり、前掲甲第五号証の三、証人荒力、同橋場広和、同大久保松夫の各証言によれば、右短縮化の後、本件セミトレーラの各支柱の上端部に、注意喚気のため、幅一〇センチメートルの黄色の塗装を施したこと、被告は、右の支柱短縮化に先立ち、昭和五二年三月二五、六日、訴外孝志を含む従業員の運転手を集めて説明会を開き、被告の専務取締役橋場広和において、同訴外人らに対し、右の趣旨を説明し、今後とも積荷の崩落等に注意すべき旨一般的な指示を与えたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかしながら、被告は、前二、2、(一)の項の認定のとおり、訴外孝志に対し、本件貨物自動車一台によつて、依頼を受けたラワン原木の所定区間の運送をすべき旨指示したものであるところ、前一の項の認定によれば、本件事故直前に積載されていた原木四一本及び訴外荒が訴外孝志の合図によつて三排目に積込むべき残余の原木三本、合計四四本全部が本件セミトレーラに積載された場合には、それが道路交通法上の過積載となるか否かはともかく、いずれにせよ、積荷が荷台支柱の先端を超えることは明らかであるが、この点について、被告が、事前に注意を払い、荷台支柱の短縮化との関連で、適正、安全な積載及び運搬が可能であるか否かについて的確な握握をしていたことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、訴外孝志に対し、漫然と業務命令を与えたものといわざるを得ない。また、被告か、訴外孝志の就労前に、同訴外人に対し、支柱先端を超える積載をすることがないようその励行方を指示し、更に、積荷の整とん及び結束作業を適正かつ安全に行うようその注意を喚気したことについては、証人橋場広和、同大久保松夫の各証言をもつてしても認めるに足りず、他にこれを肯認させるに足りる証拠はない。のみならず、荷台支柱が右のとおり短縮化された後も、被告の運転手の間では、支柱超過積載車両の運転をすることが稀ではなく、内材については、被告の作業指揮者の判断でこれを容認し、外材にあつては、この点の判断が事実上運転手に委ねられていたことは、前2、(三)の項の認定のとおりであり、更に、成立に争いのない甲第三号証の三、四によれば、本件事故の調査を担当した労働基準監督官は、被告に対し、昭和五二年七月一九日付指導票を送付したが、それによると、本件事故の直接の原因は、支柱先端より高く原木を積込んだことにあるとして、支柱より原木を高く積込まないよう、積込作業員、原木検収員及び関係事業場と打合わせを十分行い、その周知徹底を図ること、運転手に対しても、支柱より高く原木の積込をしないよう、安全教育を実施するとともに、積込作業中においては、関係労働者との打合わせを十分に行い、監視を十分に行うこと、積込作業において、原木の崩落等が生じないよう、十分な管理体制を整備することを指導し、あわせて右指導事項についての改善状況の報告を求めたこと、これに対し、被告は、翌二〇日付で、旭川労働基準監督署長に対し、原木積込用の支柱は、転落防止のためにあるので、支柱より上部には絶対に積込をしないよう、各現場班長及び責任者に厳重に指導し、その体制を整え、北海道内の港湾荷役業者にも申し入れを行う、運転者の安全教育については、記録簿を備えて、毎週土曜日に定期的に教育を行い、必要に応じてその都度注意して災害防止に努め、災害事故の絶無を期す、各現場及び作業場において管理体制を整え、班長及び責任者が監視し、災害防止に万全を期して、作業員、運転手個人ごとに互いに注意を払うよう指導する旨の報告をしたことが認められる。以上認定の事実に照らせば、被告において前認定の措置を講じたことをもつて、訴外孝志に対する前2の項に判示した労働契約上の安全保護義務を履行したものとは到底認め難く、被告は、本件事故の発生について、債務不履行責任を免れないものといわなければならない。

4  被告は、右義務の不履行について、本件事故は、訴外道栄荷役及びその従業員である訴外荒並びに訴外孝志の一方的な過失に基づくものであるから、帰責事由がない旨主張するので検討する。

なるほど、訴外孝志は、本件のような木材の運搬関係の仕事には、相当年数の経験を有していたところ、被告から、荷台支柱の長さを一・五五メートルに短縮するのに先立ち、右の趣旨の説明を受け、今後とも積荷の崩落等に注意すべき旨の一般的な指示を受けたこと、それにもかかわらず、本件事故当時、訴外荒に合図し、これと協同して支柱の高さを超える積込をさせたこと、本件セミトレーラの荷台上で積載された原木を整とんし、ロープ掛けをする際、漫然、原木と原木との谷間(目)に入つていた状態の原木を動かし、そのため、不安定な状態の原木が右荷台の頂上部に残つていたこと、そこに原木が転落してくるおそれのある右荷台の側面部において、ガツチヤ掛けをしたことは前認定のとおりであつて、これらの点は、訴外孝志の作業上の過失であるものといわざるを得ない。更に、機械力による原木の積込作業は、専ら訴外道栄荷役の責務に属したものというべきところ、訴外道栄荷役において作業指揮者を派遣していなかつたことは、前認定のとおりであり、証人荒力の証言によれば、本件ローダを運転した訴外荒は、使用者である訴外道栄荷役から、原木運搬の運転者の指示があつても、支柱より高く積込まないよう一応の指導を受けていたことが認められ(他に右認定を左右する証拠はない。)、それにもかかわらず、訴外荒が、訴外孝志と協同して、支柱先端より高く積込をしたことも前述のとおりであつて、右事実に照らせば、訴外道栄荷役ないし訴外荒にも、右にみたとおりの過失があるといわなければならない。

しかしながら、関係者のこうした過失が競合しているにもかかわらず、なお、本件事故の発生について、被告の義務違反が存したものとみるべきことは、前3の項の認定、判断から明らかである。もつとも、前掲甲第五号証の一によれば、本件事故を捜査した警察官は、右事故が訴外孝志の一方的な自己過失である旨の捜査報告書を作成していることが認められるが、右書面の趣旨、目的に照らせば、損害賠償法上も訴外孝志の一方的過失に帰因するものと認定することの資料には到底なし難く、被告の主張に添う証人橋場広和及び同大久保松夫の各証言もまた、右認定、判断に照らし措信できず、他に被告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。右主張は採用の限りではない。

なお、被告は、本件事故は、訴外道栄荷役の指揮下にある荷役作業中に発生したものであるから、港湾運送事業者ないし港湾荷役請負業者ではない被告が責任を問われる筋合はない旨主張するので、この点について検討するのに、被告は、本件貯木場における本件セミトレーラへの原木積込作業について、全くその責務を有しなかつたわけではなく、その運転手である訴外孝志をして、荷役作業者のする右作業に協同従事させていたものとみるべきことは、前述のとおりである。のみならず、被告は、被告が、港湾運送事業のうち、沿岸荷役事業を行う事業者ないしその下請業者でない旨の主張をするものと解されるところ、本件貯木場が荷さばき場であるとしても、本件荷役作業が陸上運送用貨物自動車への貨物の積込であつて、沿岸荷役事業の目的物とされている船舶若しくははしけにより運送された貨物、あるいは運送されるべき貨物(港湾運送事業法第二条第一項第四号、第三条第四号参照)に係る作業でないことは明らかであるから、右主張も採用に由なきものというほかはない。

三  損害〈省略〉

四  過失相殺と原告らの相続〈省略〉

五  損害のてん補〈省略〉

六  結論〈省略〉

(裁判官 清水利亮 篠原勝美 佐藤和征)

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